歴史
BC412年のヒポクラテスの記載には「ある日突然に多数の住民が高熱を出し震えが来て咳が盛んになった。たちまちに村中にこの不思議な病が広がり、住民たちは怯えたが、あっという間に去っていった。」本邦の記録では「三大実録」(862年):激しい咳の出る疫病。源氏物語では“しはぶき”(咳逆)と登場している。古くから人類を悩ませた疾患である。その語源は天体運航から発せられる霊気が人の体に入り込むinfluence⇒influenzaである。
インフルエンザウイルスについて
科学的に正しく判定出来るようになったのはここ100年余りに過ぎない。
ウイルスが初めて人から分離されたのは1933年ウイルソン・スミス、アンドリューによってである。これは現在のインフルエンザウイルスの分類によればA型ウイルスである。1940年B型ウイルスの発見、1949年C型ウイルスへと続く。発見順にA,B,C、となった。型別はウイルスを構成している内部蛋白の違いによる。
A型は野鳥を中心に多く動物に感染する。ウイルス表面の突起が2種あり
HA(Hemagglutinin)で16種類、NA(Neuraminidase)で9種類。2つの突起の組み合わせで16×9=144種類のウイルスが存在する可能性がある。HAとNAの組み合わせはH1N1とかH5N1のようにあらわす。
B型は大きく流行するのはヒトのみである。HAが1種類、NAも1種類で亜型は無いとされているが、HAに山形株系とVictoria株系の2種がある。
C型はNが存在しないし亜型もない。
世界的な流行(パンデミック)を引き起こすのはA型のみである。
A型:次々変異し亜型が存在。感染力が強く流行し、症状が重い。
B型:変異の幅が小さく、症状はA型より軽い。
C型:感染力が弱く、症状が軽い
インフルエンザウイルスはウイルス遺伝子であるRNAが8個に分かれている事から新しい型のウイルスが容易に出来る、DNAに比べて変異が起こりやすいという特色があり、「人類に最後まで残る感染症」ともいわれている。
ウイルス株の命名法は図に示す。
インフルエンザウイルスは何処から
冬の間ウイルスはシベリアやアラスカの氷の中で冷凍保存されており、春に氷が溶ける、その水を鴨や雁などの渡り鳥が飲む、鳥の腸管で増えて糞に出てくる、東南アジアやメキシコ等で飼われている鶏に感染する。感染が繰り返す中に病原性が高まったウイルスはブタに感染し、ブタがヒトインフルエンザウイルスに二重感染しているとブタからヒトへと感染する。
パンデミック(世界的な大流行)
スペイン風邪は1918~1919年に全世界的に流行した、人類が遭遇した最初のインフルエンザの大流行である。当時の世界の人口16億の3割に当たる5億人が罹患し、5,000万~1億人が亡くなった。第一次世界大戦での死者は900万人であったからこの厄病は戦争の終結を早めたとも言われている。本邦でも5,500万の人口の内50万弱が死亡した。アメリカの中部で流行ったかぜは米軍の欧州進軍に伴いヨーロッパで流行り、全世界を席巻した。交戦中の各国は自国での流行を隠したため中立国であるスペインが流行の震源地の汚名を受けることになった。当時はインフルエンザウイルスの発見前であり、インフルエンザによる細菌性肺炎に対する有効な対策である抗生物質が未だ発見されておらず、抗ウイルス剤も無く、戦争による人の大量移動、公衆衛生的な対策の皆無等の悪条件が重なったためこのような大惨事になった。
2009年の新型インフルエンザに対する日本での取り組み
メキシコでブタ由来の新型インフルエンザが発見され世間を震撼させた。
死亡者数は別表の如く我が国に於いては圧倒的に少なかった。
感染死亡者が極端に少なかった理由は次にあげる。
① 医療インフラの整備。病院・クリニックが整備されて保険制度が完備されている。
② 早期発見、早期治療が出来た。
③ 感染すれば重篤になり死亡に至る人への治療レベルが高い。
④ 流行初期の学級閉鎖、学校閉鎖の徹底。
⑤ サーベランスと遺伝子検査
ワクチン
インフルエンザワクチンは不活性化ワクチンで、ウイルス自体が小変異をするため、流行するウイルスの型とワクチンに型が合わないと「効果がなかった」という印象がある。しかし予防接種をしていない人と接種をした人を比べると発症リスクが60%程低減され、症状の重症化を防ぎ、インフルエンザによる入院・死亡のリスクを80%低減し、他人への感染予防が期待できる。
ハイリスクグループ
高齢(65歳以上) 小児(5歳未満) 妊娠中 基礎疾患のある者
慢性呼吸器疾患・慢性心疾患・代謝性疾患 腎機能障害 免疫不全機能
担癌患者であり、これらの人はワクチンの接種を推奨されている。
診断
迅速診断キットを用いる。鼻咽腔吸引液の方が咽頭ぬぐい液より感度が良い。鼻腔から上咽頭の後壁に直接当たるまでスワブを挿入し、検体を採取することが肝要である。
鼻腔の働きとして鼻汁の分泌があるが、なんとその量は一日1Lにも達する。冬場空気が乾燥すると鼻粘膜も乾燥し、その間隙を突きウイルスや細菌が上咽頭に付着する。
治療
細胞の中で増殖したウイルスが細胞外へ出るのを防ぐのを目的とした薬物
*タミフル(内服薬) 一日2回(2錠)5日間服用する。
*リレンザ(吸入薬) 朝晩2回吸入し5日間続ける。
*イナビル(吸入薬) 1回の吸入で終わる。
吸入薬は吸入の仕方が悪いと効果が出ない。吸入力が弱い高齢者等ではリレンザの方が向いている。
*ラピアクタ (点滴注射薬) 成人が対象
細胞の中でウイルスの増殖を抑えるゾフルーザが今季から発売された。
*ゾフルーザ(内服薬) 1回2錠の服用で済むことから、一気にシェア
1位となったが耐性ウイルスの発現が報告されている。
感染予防対策
① 流行期前にワクチンの接種。
② 人混み、繁華街への外出を控える。
③ 外出時はマスクの着用、室内での加湿。
④ 十分な休養とバランスの良い食事
⑤ 咳エチケットと帰宅時の手洗いとうがい
職場や学校への復帰
解熱してから後2日間を経過するまでは自宅で安静する。